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「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム


「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム


「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム。2010年2月27日開催

共催 社団法人日本山岳協会日本勤労者山岳連盟日本山岳サーチアンドレスキュー研究機構 

13:00    開会 総合司会  古賀英年

挨拶 内藤順造(社団法人日本山岳協会副会長・専務理事)

13:10---13:25 T.戸田氏による「トムラウシからの生還」  (15分)

13:25---15:30 U.トムラウシ遭難事故の原因と背景について

座長 村越真 {8人×15分(発表12分、質疑3分)=2時間}

@(報道側から見た)トムラウシ山岳遭難事故の外観と推移
岩城史枝(岳人編集部)
A山岳遭難事故におけるトムラウシ問題の位置づけ
青山千彰(IMSARJ)
Bトムラウシ遭難時の山岳気象について
城所邦夫(元気象庁山岳部)
Cトムラウシにおける低体温症について
船木上総(苫小牧東病院副院長
Dマスコミの問いに対する、登山専門旅行会社の見解
黒川 惠アルパインツアーサービス株式会社代表取締役)
Eガイドの意思決定のあり方について
磯野剛太(社団法人日本山岳ガイド協会理事長)
Fトムラウシ遭難事故の法的問題
溝手康史(弁護士)
G山岳団体から見たトムラウシ問題
西内博(社団法人日本山岳協会遭難対策委員長)

15:30---15:40 休憩

後半の部; 8人のパネリストと、会場の参加者との共同討議 

座長 青山千彰

15:40---16:40 事故の原因と問題点に関する総合討議

16:40---17:30 ツアー登山における遭難事故防止のあり方について

17:30 閉会挨拶 井芹昌二(日本勤労者山岳連盟副・遭対委員長)


日本山岳サーチアンドレスキュー研究機構
「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウムの当日の資料集(上の写真)が下記URLにて配布されています。(PDFファイルにてダウンロードできます。)

http://www.imsar-j.org/2009-04-23-09-38-06/2009-04-23-10-26-43/97-2010-03-04-08-13-46.html

社団法人 日本山岳ガイド協会 トムラウシ山遭難事故調査特別委員会による
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)

トムラウシ シンポジウムで 感じたこと



2009年7月 トムラウシ山の遭難事故

ツアー登山による 大きな山岳遭難事故(ツアー登山2009)

日本山岳ガイド協会の報告書[トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)]なども 今般 だされたが 事故の再発防止の観点から 早急にしなければならないことなど 一杯ある。

シンポジウム会場では色々な観点から 活発な討議がなされた。


遭難事故の責任追及でなく 事故の再発防止を第一に考えて討議するという とても参考になった いいシンポジウムであった。

昨今の登山の風潮として

■なぜ トムラウシなのか いわゆる「著名山ブーム」

遠路 わざわざ 限定された 時間で 悪天候の中でも 無理して ピークハント の縦走を ツアー登山するというのも  著名山ブームに踊らされているのでは?

 もっと 他に違う登りかたで登ったり  他にいい 登るべき山は たくさん あるのでは? 

■旅程保証義務 と 安全配慮義務

表向きの 建前としては 安全が優先するのだが、本音 としては 著名山 ピークハント のツアー参加者からの強い要望などあって ガイドも エスケープ後の旅程日程の調整などなど 面倒な手続き 更には 会社からの評価など 考慮すると 少々の悪天候でも強行しやすいのが現状なのだろう。

■みんなでいけば 大丈夫? 

雪崩危険地帯でもそうだが 悪天が予想されても 皆が行っているから 大丈夫だろうと つい つられてしまう 危険が潜んでいる。

報告書の中にもでているが、2009年7月16日 ヒサゴ沼避難小屋で 出発を躊躇っていた 組織登山者の一行もツアー登山の遭難パーティーにつられて 30分後に小屋を出発した。

一行は 途中で遭難パーティーを追い抜き 何とか無事だった。


■「引率型登山」が増えてきているとか

 学校集団登山 ツアー登山 ガイド登山などが 典型的な「引率型登山」だったのだが 今日 その引率型が 流行のように どんどん広まってきているという。


■組織登山も 高齢化

かつては 山岳会、山岳部など一定の組織の傘下にある組織登山者にたいし、未組織の いわゆる未組織登山者の問題がおおきな課題であったが  組織登山団体も 今日 高齢化してきた。

本来 自己責任の原則で 活発な登山活動を行っていた 組織登山者も 高齢化してして、会には 後継の若年者がいない のが現状だ。


■組織登山者も 教育機能が低下

未組織登山者にたいし 組織化されて 一定の教育機能を持っていた組織登山者の所属する 一般山岳会も いまでは 若年層が減少し 全体的に 高齢化し 老から若への教育機能が低下している。

その結果 老から老 さらには 結局は 引率型登山の組織へとなりつつある。

■組織登山団体も引率型へ?


端的に言えば「連れていって」

自分で登る山を探し 計画し 山を登ることしかなかった時代から 山といえば ツアー登山か 引率型一般山岳会・同好組織・NPO組織などなんでもいいのだが 誰かに連れていってもらう という形へと 変化しているという。

■安全配慮義務
 
「引率型登山」となれば リーダーに安全配慮義務がでてくる。
 

■トムラウシでは 「ツアー登山」の問題だったが

 引率型登山では 事故でもあれば 山岳会・同好組織・NPO組織でも 安全配慮義務が問われる。

安全配慮義務の 商業ツアー登山だけでなく NPO組織 山岳団体でも 民事責任が問われる。 

引率型登山から
登山者のレベルアップをいかにするか?
リーダーも責任が重い。


■主体性をとりもどすこと

他人任せの「連れっていって」の引率期待型の登山者を いかに 登山者本来の 主体性をどう確立して 自立できる 登山者にレベルアップするべきか?

難しい課題だが これから 考えていかなくては いけないと思う。


トムラウシ山遭難事故に関して 今後の教訓として 思いついたこと

「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム
 トピック的に 

■1 ザックカバー

強風下で 経験することだが どんなに 強固に固定していても 大体 ザックカバーは 風速15-20m/sec以上になると 飛ばされる事が多くなる。

このとき 流し止めの紐などで しっかり固定していかないと飛んでいってしまう。

もともと ザックカバーなどという しなものは 軽い横風の程度では使えるかもしれないが  強風雨 風雪のもとでの使用は想定していないものだ。

はっきり言って 強風雨 風雪のもとでは ザックカバーは 全く使い物にならないどころか ザックカバーを直しているうちに パーティーからはぐれてしまって 遭難した例も過去にはあるなど、 悪天候時にはザックカバーなど厄介なものになるだけだ。


もちろん 強風での行動を控えるのが一番望ましいのだが もし どうしても強風の風雨 風雪 の天候でも  行動するというのなら ザックカバーに頼らず ザックの内味で濡れたら困るものなど 個々の内容物をしっかり 濡れないよう しっかり防水対策しておくことが むかしからの山屋の常識なのだ。

そういえば もとはといえばザックカバーなど 低山ハイカー向きのもので 沢屋は わざわざ ザック本体に 排水穴を開けるなど、昔の山屋には 全く無縁のものだった。

 

トムラウシ遭難パーティーではザックカバーが飛ばされる報告があった。

もっとも ザックカバーが飛ばされる程度の風が吹くということは かなりきつい風雨だから 一般的な山歩きでは 行動を慎重にという シグナルがでていると 感じるべきなのだろう。


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■2 低体温症対策 「頭を冷やすな」


トムラウシ遭難事故の 直接の遭難原因は 強風雨と低温での行動で 低体温症となったことだった。

低体温症で 行動が鈍くなり 中でも 頭脳を冷やして 正常な判断能力が低下。

冷静な判断を下せば 色々と対策が出来たことも 判断力低下で 次々と 深みにはいっていってしまい さらに 低体温症を悪化させてしまう。

低体温症対策は 結局「予防しかない」という。

状況が悪くないときに 頭を冷やさない ようにし 低体温症予防処置をする必要を痛感した。

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「本遭難の直接的原因である低体温症は、予知が難しく、教科書どおりにはいかない。初期段階での対応が肝心だが、それより以前にガイドは、雨、風、気温、年齢、体力、補給すべきエネルギー(カロリー)など、どのような状況、あるいは環境になったら低体温症の危険があるか学習し、よく理解しておく必要がある。」
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)


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■3 携帯電話


携帯電話の普及で 安易な救助要請が増えた という指摘もある。

山の原則は あくまで自力で無事下山すること。

まず第一の基本原則は なんとしても無事自力で下山することに最大の努力を払うべきだ。

その原則を前提としても 万が一 不幸にして 救助を要請しなければならない事態に陥ったとしたら、諸刃の文明の利器といえるのが 携帯電話。

2009年7月16日 トムラウシでの遭難の 救助要請も携帯電話で 行ったが遭難パーティーは 7月14日 避難小屋では携帯電話で天気情報も入手した。

何故 もっと はやく救助要請をとか もっと 詳細なウェザー情報を取得しなかった とかいわれるのも 携帯電話があるからこそで、連絡がつけば 色々と出来ることが沢山でき 選択肢が増えるのである。

低体温症でない 冷静な判断能力を維持して 通話可能な場所をチェックするなど 非常時なら携帯電話を活用できるよう 普段から訓練として 色々なシミュレーションも 考えておくべきだ。

なお 最近の携帯電話の新機種にはGPS機能が付属している。

GPSをもっていて うまく活用できれば 道迷い遭難はぐっと減る。

それでも 万が一遭難し 救助要請するというのなら  GPS位置情報もチェックし通報しておけば  救助に向かう捜索範囲をピイポイントに狭めて 救助を素早くできる。

GPS、 遭難した時、救出養要請するとき、あるいは遭難防止対策に 是非活用したい。

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■4 地上風は 地形で左右される


2009年7月15日 トムラウシ山付近では 南からの風は 地形的な要素で弱まり 雨はふったものの風がなかった。翌 7月16日は 風向きは変わり 横からの強風雨となった。

気圧配置で変わる 風向きなどは 山の上では 山の地形で地上風は風の強さ 風向きなど 大きく左右される。

山間地では この位置では この風向 風力、 ここでは 違う 風向 風力と 地形で左右されてしまう。

出発時点での風雨 風向と 途中の各ポイント。

地形図で予測も出来るが 多分に 経験的な要素が多い。

ここで この風で あそこなら どのくらいの風。 予測がつけば 対応も出来る。

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■5 山では「はやめに 天候が悪化」し 「天候回復も遅れる」

「昼からは晴れる」とかいう 平地での天気予報を聞いて 山へ行くと 大体において 思ったより天気が悪いのは 山では いつものことである 。

一般的な天気予報は平地での予測。
平地では 気圧の中心で判断するが、気圧の周辺部でも 山の天気は影響する。

だから 山地では、タイムリードというか 数時間は早く悪化、 回復もタイムラグで数時間 いや半日以上 かも知れないが ずれがある。

「昼からは晴れる」というのは 平地でのことであって、常に早めの 変化が現れ 回復も遅れるのが 山の天気だ。

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■6 一方は遭難 一方は無事。

2009年7月16日 無事トムラウシ温泉へ到着した某パーティーがあった。

7月16日朝 遭難パーティーの出発から30分後 ヒサゴ沼避難小屋をでた組織登山者のパーティーは リーダーとサブリーダーの意見の相違はあったり 多少の低体温症になったりしながらも 全員無事トムラウシ温泉へ到着した。

一方は遭難 一方は無事という現実。

遭難パーティーとの 違いは 一体 どこに あったのか ガイド協会の事故報告書にでていた。

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「このパーテイがアミューズPと同じ時間、同じコース、同じ気象条件下でありながら無事下山できた理由は、周到な準備、仲間意識、前日の短い行程による体力の温存、長時間の停滞がなかったこと、などが挙げられる。
しかし、天候の予測とパーティの行動決定については、意見をまとめることに苦慮していた。行動に不安を感じたら、やはり安全策を優先させるべきだろう。結果的に無事下山できたとはいえ、あの悪天候の中、ヒサゴ沼の避難小屋を出発すべきではなかったと思う。(金田正樹 記)」

縦走日程を強行した遠因に 民宿の予約 帰路の切符の手配 などあるとしたら エスケープ下山の可能性などにたいして フレキシブルな対応ができるよう 旅程変更が可能な計画が 今後は必要になるのだろう。

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■7 登山のDNA

シンポジウムのなかで

「ツアー トレッキング会社のなかで 元々 山屋が起業し 社員も 山屋のDNAを きちんと 引き継いでいる ツアー トレッキング会社は 僅か数社。」という発言があった。

今日 ツアー会社 トレッキング会社 をはじめ 山岳会 同好会 NPO組織など引率型登山を実施するのであれば   すべて 登山のDNAを引き継ぐ 立場で 判断すれば 良いのだが、リスクのある コースを 、「旅行会社」として たどろうとするところに 基本的な 問題が潜んでくるのだろう。

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「そもそも旅行業界の中で、元々専門家である登山家たちが起業して成り立ち、経験の深い登山家たちが実務を行なっている旅行会社は、わずか数社にすぎない。概ね百名山などの付加価値に着目して商品化し、あるいは他社が成功していることに追従して企画・募集している旅行会社がほとんどである。
 つまり、ツアー登山業界は、旅行業のレベルで考えて「登山」を安易に商品化していないだろうか。体制的には整っているように見えるが、それはビジネスとして成立しているだけで、登山活動の着実な実施と安全性の確保という観点から検証すると、実力不足を感じさせる会社がほとんどではないだろうか。経営者や企画者、登山ガイドが一体となって、ツアー登山に対するレベルアップに努めるべきであろう。
 登山が、専門的な登山家や登山者だけの遊びではなく、ツアー登山という形で敷居を下げ、自然を愛する人々に広く親しまれ、定着していくことは大変喜ばしいことではあるが、そこに潜むリスクをいかに回避していくかについては、ツアー会社の責任も、ガイド同様に重い。」
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)

 
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日本山岳サーチアンドレスキュー研究機構
「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウムの当日の資料集(上の写真)が下記URLにて配布されています。(PDFファイルにてダウンロードできます。)

http://www.imsar-j.org/2009-04-23-09-38-06/2009-04-23-10-26-43/97-2010-03-04-08-13-46.html

社団法人 日本山岳ガイド協会 トムラウシ山遭難事故調査特別委員会による
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)

『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』


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羽根田 氏の言 のとおり 組織登山者含め 引率型登山が主流になり、自主的な 自立型登山をする人が だんだん減っている。

業界に 踊らされ 流行に 左右されることなく 自立した 山歩き を目指したい。

これからも 「自分の山」を じっくり登っていきたい。

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『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』
羽根田 治 著 2010年1月15日初版 平凡社

『新聞やテレビなどで報道される遭難事故のニュースを見て、われわれは「自分も気をつけなきゃ」と思う。
だが、他人の事故を「我が身にも起こりえること」として切実にとらえられる人が、いったいどれぐらいいるのだろうか。』

『今 遭難事故が年々増え続けているいちばんの要因は、多くの登山者が「山は危険な場所だ」という認識を持っていないことにあるとあると思う』

『これほど 遭難事故が増えてしまったのは、業界全体の責任でもある。中高年の登山ブームが始まったとき、業界は「山は楽しいところだ」「登山は健康にいい」というイメージだけを全面に押し出そうとし、山の危険を説くことには決して熱心ではなかった(私 {著者 羽根田氏}もその片棒を担いでいたひとりである)。むしろ 見て見ぬふりをしていたといってもいい。そのツケが、今、回ってきているのである。』


『いずれ山は、ツアー登山やガイド登山などの、”連れられ登山”の一行に席巻されるようになってしまうのだろうか。自発的に個人で山に登っている登山者は、今後ますます少なくなっていく気がする。』

『山の遭難 あなたの山登りは大丈夫か』
羽根田 治 著 2010年1月15日初版 平凡社


ツアー登山2009 最近の山歩きの傾向 ツアー登山 
BLOG  トムラウシの遭難事故を考える シンポジウム その1 その2


2010年3月13日 第1版制作
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